アトリエ・マイルストンブログ

2013年1月2日水曜日

新春の「北斎富士」三昧

1月2日・水曜日、快晴、強風


今日は快晴ながらも、まるで新春の「春一番」のような、温かな南風が終日吹き荒れました。


新春2日目の「名作美術館(その39)」をお届けします。
本日は、我が国が世界に誇る江戸の天才絵師・葛飾北斎の登場です。

本日は、傑作揃いの北斎の中から皆様ご存じの「富嶽三十六景」の代表的な二作品を取り上げます。


神奈川沖浪裏(なみうら)(横浜・本牧海岸からの眺望と言われています。)
1831年(天保2年)、横大判錦絵(多色摺り木版画)、39 x 26 cm

作者の北斎とその生涯、また傑出した大量の作品群について等、書くべきことがあまりにも多くて、今、困惑・後悔しています。
例えば本作、ゴッホが大絶賛したとか、フランス印象派の巨匠ドビュッシーが本作に感銘を受けて交響詩「海」を作曲した等々。

あまりにも有名なこの作品、大胆で・斬新で・ダイナミックで、西洋美術に与えた多大な影響など、その切り口は限りなしです。
「(非力な)人間と(非情な)自然」、「動と静」、「近と遠」、「変化と不変」等々、富士を取り巻く世界のパノラマ模様と言えます。
構図的にも「富士と波の三角形の連続性」、「富士の頂上へと視線を誘う円運動の構図」、「波飛沫の装飾性と写実性」等々。
一見、図案的な波飛沫の形など、現代のスピード写真技術で、その瞬間の正確さが指摘されたりもしています。
鋭い観察眼によるリアリティーと、絵画的叙情性が一体となった、正に全人類の財産と呼ぶべき傑作です。
逆巻く大波に小舟の上で翻弄される人々への温かな視点も、北斎ならではの豊かな愛情が感じられます。




凱風快晴(がいふう かいせい)(通称:赤富士)
(制作データは、上記作品に準ずる)


凱風とは南風のことを指すそうで、まさに今日の天気のようです。
赤い山肌は、いわゆる暁(あかつき)色で、年に何度か起こる現象で、朝日に染まる様子を描いています。
空を覆う巻積雲(いわし雲)以外は、これまた富士の一部の山裾までしか見えないような大胆な構図です。
色彩構成としては、陽画と陰画の逆転現象を画面の随所に配置して、明暗の対比の妙を楽しんでいます。

両作品共に、当時流行し始めた「ベロ藍」*と言われる西洋からの高級輸入品の紺青の顔料を用いています。
(*印注:プルシャン・ブルーのことでドイツの旧名のプロシアを指し、ベロはベルリンが変容した呼び名です。)


モノクロ(白黒)画面に直して見てみると、輪郭を挟んでの巧妙な明暗対比の逆転現象が良く分かります。

浮世絵で有名な北斎ですが、その比類なきデッサン力で著した「北斎漫画」なども、高い評価を得ています。
もちろん、これらの作品群もまた世界中の様々な画家達に多大な衝撃と影響を与えた素晴らしいものです。
西洋のダ・ヴィンチ、東洋の北斎と謳われる絵師・北斎、もっともっと見直されて然るべき偉大なる巨人です。

*

これらの小さな木版画が、19世紀(明治期)のヨーロッパの各所で、その平明な色彩と大胆な構図で人々の眼前に現れました。
それらは驚愕と感動の目で歓迎され、多くの人々の口や手により、パリやロンドンやその他の各地へと伝播して行きました。
昨日のモネも、1昨日のゴッホも、その中の一人です。
モネは大量の浮世絵の収集家で、またゴッホは浮世絵をあしらった絵やそれを模した絵も描いているほどの愛好家でした。

複数芸術である木版画がその役目を担い、極東と呼ばれる未知の国の文化を西洋の文化へと広く深く浸透させて行ったのです。
一方の我が国では文明開化の御旗の下、これらの浮世絵は古い物として見放され、欧米への大量流出を招きました。
「捨てる神あれば、拾う神ある」
審美眼・価値観の相違など、考えさせられることも多いですね。


ミュージック・ギャラリー(その23)

今日は北斎富士にちなんで、富士山の様々な様相のスライド・ショーをお届けします。
映像のBGMには、S.E.N.Sの音楽が使われています。
SENSとは、Sound,Earth,Nature,Spirit の略文字で、男女二人組の音楽ユニット名です。
美しい富士の映像と音楽を楽しんでみて下さい。
では。どうぞ。

「風のように」 / SENS


今日の北斎の2作品、偶然にも今日の「風」と共通性があり、ここでまた曲名にも「風」が・・・。
「風」にまつわる不思議な共時性、面白いですね。

By 講師T