アトリエ・マイルストンブログ

2012年4月6日金曜日

彫像の目・彫刻家の目

金曜日、アトリエはお休みでした。

従って、恒例の名作美術館(その18)をお届けします。
今回もモディリアーニ(その5、最終回)をお届けします。

サブタイトルは「彫像の目、彫刻家の目」です。

 Left : Jeanne H. In a Large Hat  ( 1918 )        Right : Jeanne H. The Artist's Wife ( 1918 )

これまでモディリアーニの描く肖像画の目の表現について、テーマを絞って紹介してきました。
今日はモディリアーニの最終回として、画家の特徴である瞳が描かれていない作品2点です。

画題は「大きな帽子をかぶったジャンヌ」と「画家の妻、ジャンヌ」で、共に画家の妻がモデルとなっています。
これまで紹介した作品と異なるのは、画題とは裏腹に肖像画としてではなく、フォルム(形)が主体だと言うことです。
弓なり・卵形のカーブ主体の形態が画面の重要な構成要素となって、そのテーマでもあるように見受けられます。
この場合、妻はあくまでもモチーフとしての扱いで、テーマは人体の持つ優美な曲線のフォルムだと思われます。
シンプルで大きなカーブが織りなす優雅なフォルムとレリーフのようなソフトな階調の対比がとても美しい作品です。

画家は若い頃、彫刻家を目指していたとのことで、しかも伝統的彫像名作の本場イタリアの出身者でもあるのです。
大理石やブロンズの彫像の瞳に色はなく、見る者は瞳に関心を向けることなく、その形態そのものを鑑賞するのです。
画家が、瞳に色のない彫刻彫像の持つ造形的魅力に曳かれていたことは極めて明白です。
モディリアーニのこれらの作品は、人体の持つ曲線や量感が魅力的であることを如実に物語っています。
(以前、紹介したボナールの作品(2/29日アップ)とは極めて対照的なタイトルです。)

瞳のない画家の妻・ジャンヌ・エビュテルヌは、その意味でキャンバスに描かれた彫像だとも言えます。
でも、妻に愛情が無かったわけではありません。画家の関心はあくまでもその造形性にあるのです。
また、画題は画家の死後、第3者の手によって付けられたようです。

画家は、幾人かのパトロンや画商に認められていたにせよ、社会的成功を手にすることなく この世を去りました。
若い頃から患っていた結核を悪化させ、両作品 制作の2年後1920年に35才の若さで没しました。
その2日後、画家の最愛の妻ジャンヌも一人娘を残し、9ヶ月の身重で後追い自殺をしてしまいました。

こうしたことを知って、今一度 瞳のない彫像のような目を見ると、何故だかまた別の感じ方もしてくるのです。
ゴッホ同様、多くの名品を残して世を去った夭折の天才モディリアーニ、多くの人にもっと知られると良いですね。
(画面内クリックすると、拡大画像が得られます。)

By 講師T